掃除の幅広いサービスで知られるダスキン。本宮支店(盛岡市)の太野かつらさん(56)は、この道35年を超えるベテランだ。
4月1日午後2時ごろ、盛岡市内の80代女性の家を、モップ交換のために訪れた。
女性は携帯電話で通話中で、玄関で待たせてもらった。
「未納料金」「払わないといけないんですか」「私、車を持っていないから歩いてでないと行けない」……。
所々、気になる言葉があった。考えているうちに、女性が電話番号を尋ねていた。
嫌な予感がした。
女性は、通話相手との会話を手元の紙にメモしていた。
そこに書かれた一つの電話番号。太野さんは数字を自分の携帯電話に打ち込み、検索してみた。
「あやしい番号だ!」
待ってから10分以上がたっていただろうか。家にあげてもらい、太野さんは紙に書いた。
「詐欺じゃないですか」。通話中のままになった携帯電話をその場に置き、女性と部屋を出た。
太野さんは「通報しますよ」と告げ、110番通報した。
すぐに警察官が駆けつけ、携帯電話に「警察です」と話しかけた。相手はすぐに電話を切った。
やはり詐欺電話だった。女性は着信のあった番号にかけ直していたこともわかった。
5月13日、太野さんは盛岡東署の吉田知明署長から、特殊詐欺の被害を防いだとして署長感謝状を贈られた。
「詐欺の可能性を伝えるのも、通報するのも勇気がいりました」。自分の一方的な考えで、勘違いかもしれないという不安もあったからだ。
後日、女性宅を訪れた。女性は詐欺の電話を「うるさいな」と思いながらも、「最後には言うことを聞いていたと思う」と話してくれた。「あなたがいてよかった」。感謝の言葉に、詐欺を防いだ実感がわいてきた。
普段は主に契約先の事業所を回り、女性宅にも1年近く前から立ち寄ってきた。
定期的に訪問していると、契約先のちょっとした変化に気づくことがある。それでも、詐欺の現場に遭遇したのは初めてだった。
「筆談、電話番号の検索、通報。全ての対応が素晴らしく、その時間に訪問していなければ、女性は詐欺被害に遭っていたかもしれない」
吉田署長から声をかけられ、太野さんは「勇気をもって通報してよかったです」と表情を崩した。